2016年3月12日土曜日

Bianchetti al Limone 白魚のリグーリア風

獲れたてを産地で釜揚げにした旬のシラウオをオリーブオイルと刻んだバジリコでさっとマリネして、食べる直前にたっぷりのレモンを搾っていただく白魚のリグーリア風。
シラスやシラウオは日本だけでなくイタリアでもお馴染みの人気食材、パスタやフリッテッレなども美味しいですが、むしろこんなシンプルな前菜が一番の定番です。

"こいつぁ春から縁起がいいわい"という有名なセリフがありますよね。
歌舞伎の"三人吉三廓初買"という演目の大川端の場の有名なワンシーンなんですが、このセリフの冒頭はこうなってます。
"月はおぼろに白魚の篝(かがり)も霞む春の空..."。
どんな意味なのか行間を補足しながら解説しますと、春めいてきて海や川の水温が上昇してくると夜に気温が下がったときに水面から水蒸気が立ち昇り、月がおぼろに見えたり大川(現在の隅田川)の白魚漁の篝火も霞んで見える、そういえば大川の白魚漁は春の到来を告げる風物詩、肌寒いけどいつのまにか春が来てるんだなぁ、といった情景です。
昔は東京湾でもシラウオが獲れたんですね。
そして隅田川が海に注ぎ込み淡水と海水が混じり合う汽水域が漁場で、漁期=旬は春、暗がりで篝火を焚いて光に集まる習性を利用した漁法で獲るんですねぇ。

かつてシラウオ漁の漁場だったあたりが現在の築地市場。
徳川家への献上品としてシラウオ漁で富を築いた佃島の漁師が、対岸の築地地区の埋め立てや、大火で焼けた築地本願寺の再建に尽力したり、大規模な魚河岸を日本橋に築いたりしたそうですが、関東大震災の後にその魚河岸が移転した先が築地。
当時のシラウオ漁師たちの営みが今の築地市場のもとになったんです。
今はここでシラウオは獲れませんが、月もおぼろに霞む春には全国から水揚げされたばかりの旬のシラウオが築地に集まってきます。
時代を超えて漁師たちのロマンが受け継がれているかのようですね。

築地に集まってくるシラウオの産地は、島根の宍道湖、茨城の霞ヶ浦や北浦、北海道は網走湖(寒冷地なので漁期は秋)など多数ありますが、なかでも日本一の水揚げを誇るのが青森県は小川原湖で、国内漁獲量の7割を占める名産地だそうです。
知名度が低くちょっと地味な印象ですが、シラウオに加えてワカサギの漁獲量も日本一、他にもシジミやハゼやウナギなど海水が混ざる汽水湖特有の水産資源に恵まれた一級の漁場で、実力的には西の宍道湖に匹敵する東の汽水湖の代表格なんだそうです。
ちなみに今日使ったシラウオも青森県産です。

ところでシラウオって小さくて何かの稚魚のようですよね。
でもこれでれっきとした成魚でシラウオという種類の魚なんです。
シラスによく似ているけどシラスはイワシの稚魚、福岡などで踊り食いにするシロウオはハゼの仲間の魚、似てるけど全部違うんです。
でもイタリアではシラスとシラウオはあまり区別していないかも。
シラウオはイタリア語で "Pesce Ghiaccio" =氷の魚。
でも料理の食材としてはシラス(のように白くて小さい魚)という意味の "Bianchetti" と呼ぶことの方が多いみたい。
リグーリア地方では "Gianchetti"、他にも "Neonata" や "Rossetti"、 "Cecenielli"など地域によっていろんな呼び名があります。

ビァンケッティを食べるのは主に南イタリアと北部のリグーリア州。
パスタやフリッテッレなどの料理に使うほか、新鮮なものは生のまま、もしくはさっと茹でて州特産のバジリコとレモン汁とオリーブオイルで調味しただけのシンプルな前菜が一番の人気。
春のリヴィエラをわたる潮風の香り漂う一皿です。

Ingredienti (per 2 persone)

シラウオ(釜揚げ)150g
バジリコの生葉10枚
レモン1/2個
にんにくごく少量
オリーブオイル大さじ3
黒胡椒適量
必要に応じて

※分量は一応の目安なので味見しながら作ってください

Preparazione

にんにくはすりおろして、ごく少量(耳かき一杯ほど)だけ使います。
バジリコの葉は粗く刻んでおきます。

にんにくと刻んだバジリコの葉、オリーブオイル、釜揚げのシラウオをボウルでさっくり混ぜ合わせます。
シラウオ自身に塩気がありますが、味を見て足りないようなら塩を加え味を調整します。

皿に盛り付けて軽く胡椒を挽き、櫛切りにしたレモンとバジリコの生葉を添えれば出来上がり。

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